麦の穂をゆらす風」を渋谷で観てきました。
アイルランド独立戦争を描いた映画。
大英帝国の残忍非道な支配に対して闘っていた仲間たちだが、
休戦のひきかえにむすんだ条約の内容をめぐって
互いに争いあう内戦に突入してしまうという悲劇。


英国から派遣されている軍隊の連中の野蛮さには
はらわたがにくりかえる思いである。
日本軍も残虐行為さんざんしたけどね、
英国紳士の連中も相当ひどいことやってるし
アメリカ軍が世界各国でやってることだって
ムチャクチャだしね。
結局、民族的にどいつが残虐とかさ
ファシズム軍隊が残虐で連合国側はそうじゃなかったとかさ
そんなことは全然言えないわけで、
人が人を暴力的に抑圧するという行為を働くという点において
軍隊、警察は残虐行為に走っていくものである。
その支配する側に抵抗し、自由を求めようとする反体制組織の側にしても
有無を言わさず銃撃し、爆弾テロをしかけ、
内部の密告者を処刑したりという悲劇が生まれる。
結局、人間は暴力の連鎖を断ち切れないのか?


ケン・ローチ監督作品の醍醐味は、議論のシーンだと思う。
この作品でも、IRAに資金提供する高利貸しに対する処遇とか
条約の調印をめぐって議論するシーンがある。
また「大地と自由」でも、土地の共有化をめぐって
スペイン人民戦線の活動家たちが議論するシーンがある。
このようなシーンでは、けっこう難しい言葉も飛び交うんで
歴史、社会科学についてそれなりの知識がないと、
ややもすると退屈なシーンととられかねないが、
鉄道労働者のダンが、自身の体験を交えながら
なぜ闘うのかということを切々と説くあたりの「熱さ」は
きっと伝わるんじゃないかと思う。
そして、「ケス」を見たことのある人なら
主人公の少年が、学校でクラスメイトたちの前で
カケスの飼育について語ったあのシーンを思い出してもらえると思う。
普段ばかにされ、いじめらえている主人公が、
とてもつたない言葉ではあるけれども、
とつとつと一生懸命に語る姿に涙した人も多いはずだ。
結局、ケン・ローチが伝えたいことは
どんなに時間がかかろうとも、
すぐに結論はでないかもしれないけれども、
うまい言葉が出てこないかもしれないけれど、
自分がほんとに思ってることを精一杯伝え合おうよ、
ドンパチ撃ち合うよりも、
まずお互いに理解しあえるような努力を
もっともっと積み重ねていこうようと
そうすることにしか希望は見出せないんじゃないかという
そういうことじゃないかなって思った。


この映画はハッピーエンドではなく、ズンドコな終わり方だし
現実を見ても、同じような悲劇は世界中いたるとこで、
今も起こり続けている。
でも、希望をもって
闘いをやめるためのことばを発していこうと
いかなくちゃいけないんじゃないかという
背中をトンと押されるような作品である。

是非、多くの人に見ていただきたい。