時津賢児著「武道の力―人間は80歳まで強くなれる!」読了。
著者は一橋大学を卒業後1971年にフランスに渡り
パリ大学で学びながら空手をフランス人に教えるとともに
武道の探求を深められてきた方。
これまでに「国際文化としてのカラテ―パリからの武道論」「武的発想論―自ら成し、自らを成す」を読んで
氏の武道に対する考え方に共感をもっていました。
わたし自身、古武道、太極拳を学び
東洋医学、気功、武道に関する本をいろいろ読んできて
考えてきたことと一致するところが大いにありました。
ひとつはパワー重視の空手を批判されている点。
若い頃はそれで通じても四十代には身体がボロボロになってしまうようなのは問題外です。
日本ではいま格闘技ブームですが、ああいうのは武道ではないですから。
もうひとつは、超能力まがいの「気」を批判している点。
気の力で人を飛ばす、とかいうのを、極めて理論的に批判しています。
時津氏は「自成道(じせいどう)」として流派をたちあげられ
日本でも教室を開いています。
時津賢児オフィシャルサイト
自成道オフィシャルサイト
4月からわたしも入門しようと思っています。


時津氏のフランス語修得と空手修行の様子がすさまじいので紹介します。

 突き蹴りのメニューを終えると、組み手用の移動稽古をする。二時間半の朝稽古を終えると大学の学生食堂で昼食を取る。弟子の学生と一緒に食事をしながらフランス語会話をし、午後はフランス語のテキストの学習に当てる。四時には道場に戻り、九時過ぎまで入れ替わり立ち替わりやってくる弟子達を相手に稽古する。基本も組手も全て一緒にやるから休む時間はなく、稽古着の汗が乾く余裕もなかった。
 平日の稽古は夜の九時一五分に終わる。シャワーを浴び、道場を閉めて外に出れば九時半を回っている。八時間近い稽古で身体は文字通りくたくたで、腹はぺこぺこである。道場はカルチエ・ラタンの中心部で、安くて旨い小さなレストランが軒を連ねるムフタール通りのすぐ近くにある。数軒のレストランを選んで一晩ごとに食いまわった。ワインを飲みながらたらふく食べるのが最高の楽しみであり、慰めでもあった。もちろんワインの微妙な味など分からなかったが、喉がカラカラなので安ワインも本当にうまいと思って飲んだ。正に五臓六腑に沁み入るといった感じだ。三年以上も毎日ワインを飲み続けて初めてワインの微妙な味を楽しめるようになった。
 六階の屋根裏部屋に帰り着くと夜の十時半を回っている。ワインのせいもあっていい気分だが下半身はまるで鉛のように重く、手摺に寄りかかって何度も立ち止まりながら階段を上っていく。机に向かって本を読むうちにまぶたは次第に重くなり、船をこぎ始め、寝床に入った途端に深い眠りの落ち込んでいく。