三島由紀夫 十代書簡集 (新潮文庫)」通勤電車で読了。
三島由紀夫 十代書簡集 (新潮文庫)
三島が10代のころに先輩の東文彦に宛てた手紙。
すでに作家を目指して、小説なども極めて分析的に読んでいることが分かる。
かなわないや。
私にとって非常に興味深い記述が2箇所。
以前、三島はゾラを読んだことはないのだろうとここに書いたが
実は「ナナ」を読んでいたということが分かってびっくり。

 ゾラの「ナナ」下巻をよみ身も心も奪われました、というと貴下にも叱られそうです。然しあの執拗さ、あの強さ、あのスピイド、……日本の小説のどこにあの縮図があるでしょう。競馬の場面では、すでにモオランの目をゾラは得ています。そして大団円の荘厳さ。大団円にあらわれる大勢の女は、モオランの女たちほどやさしくはないが、もっともえるような強さがあります。「伯林(ベルリン)へ! 伯林へ! 伯林へ!」なんというすばらしいシネマ的技法でしょう。いいかえれば、ここにはモオランの頽廃はないとさえいえます。あの大団円はゾラが汚くかけばかくほど、悲壮な理想の美がにじみでているような気がします。

う〜ん、分かってるじゃん、三島少年は!
これは昭和16年、つまり16歳のときの手紙。
もう1箇所、18歳のときの手紙。

――学校の図書舘の本で今私共のクラスで流行っている「チボー家の人々」(今第七巻父の死まであり六巻までよみました)を学校の修身の時間によむよやら昼休みによむやらして、一冊平均二時間ほどでよみましたが、こんなに面白い小説は近頃ありませんでした。頑固な父に自分の青春をかけて反抗した息子が、ふと老いて気のよわくなった父を発見してあるさびしさを感じるあたりジェネレエションの推移をえがいて委曲をつくしております。

「チボー家」も読んでたんですねえ。
しかし、このころまだ日本では全巻翻訳されていないから、「父の死」のところまでなんですけどね。
戦後に続刊を読んだのかどうか、非常に興味のあるところです。