内橋克人著「もうひとつの日本は可能だ」読了。
もうひとつの日本は可能だ
著者のいう「もうひとつの日本」とは、FEC自給圏を形成すること
すなわちFood(食糧)、Energy(エネルギー)、Care(ケア)を自給できるような社会を作ることである。
その可能性として、農作物の「地産地消」運動や、風力発電逆浸透膜による淡水化技術、「北九州エコタウン」の資源リサイクルシステムなどを挙げている。
日ごろのニュースを見るにつけ絶望的な事象ばかりが目についてしまうが、
まだまだ希望はある、捨てたモンじゃないと思わされる。
とくにデンマークにおける風力発電の普及の例は興味深かった。

 デンマークは20年前までは日本と同じように、中東の石油に大きく依存し、第一次石油ショック当時のエネルギー自給率はたったの1.5%でした。しかし、風力、太陽光・熱発電、バイオマス発電(生物資源由来の発電)などの再生可能エネルギーへの転換を図りました。政府は国民的合意をもとに、石油と石油製品に対して、「国際相場よりも高い価格にする」、つまり高い価格でしか買えないようにするという国際的二重価格制を基本政策として採用し、また環境税も新設したのです。
 それと合わせて新エネルギー産業をつくるために、市民が共同で出資する「市民共同発電方式」を重視しました。(中略)
 こうしてデンマークのエネルギー自給率はいま120%近くで、20%は輸出に回しています。ちなみに食糧自給率は300%です。
 20年前までは日本と同様に中東の石油にエネルギーを依存していたのに、いまや完全にエネルギー自給国に変貌したのです。そのことによって雇用の場も広がり、失業率も下がりつづけ、市民資本が形成され、そしてなによりも素晴らしいのは持続可能な基盤の強い経済社会ができ上がったことでした。意志を持ってやれば同じことを日本ができないわけがないでしょう。

素晴らしいじゃありませんか。
しかし、残念ながら日本とデンマークで決定的に違うことは、政治のありようである。
デンマークでは、国民的合意という意志をもって断行できたわけだが、
日本では、そのような国民的合意を作りあげるようなことがまだできない。
エネルギー政策を握っているのは、政権と密接に結びついた大独占資本であり、
彼らが推し進める石油と原子力への依存を覆すことができない。
代議制民主主義の国とはいえ、現政権は圧倒的多数の国民の意志を十分に反映している政権とは言えないのである。
それは、日本の国民、いや人民が、自らの力で権力を掌握したことが未だないからである。
デンマークのことをちょっとだけ調べてみた。
いまも王様をいただく王国ではあるけれども、1848年のフランス2月革命の余波を受けて
それまでの絶対王政を市民の力で終焉させているのである。
しかも、無血で。
なかなかスマートで、平和的ではないか。
やはり、そのような歴史を踏まえて、エネルギー問題の解決ということにも当たれたのだろう。
天皇制が存続する日本という国の変革の方向性として、非常に参考になるところがあるように思う。